【訪問看護開業インタビューVol.9】言語聴覚士が挑む独立起業「育ててくれた人たちや地域に恩返ししたいから訪問看護を選びました」後編
前回に引き続き、言語聴覚士の黒川清博様の特別インタビューをお送りします。
今回は、黒川様が大学病院の勤務から訪問看護ステーションの起業を決意された理由、これからの展望、そしてこれから独立起業を検討される療法士・看護師の方へのメッセージ等をご紹介します。
「医療」の無い介護事業では行き詰まることに気づいた――インキュベクスはすでにそれを見抜き事業化していた
訪問看護事業開設にあたって、最終的に我々インキュベクス、ケアーズを選んでいただいた理由や決め手がありましたら、教えていただけますか。
これまで、いろいろな患者さん、利用者様を診てきました。
ある程度症状がステップアップできた方は良いのですが、重度後遺症が残存する方は、急性発症して大学病院には来たものの退院後の受け入れ先が無いんです。
介護保険申請して介護費用をなんとか年金の範囲内でやり繰りしているけれど、ご家族の金銭的支援も期待できないとなると、行ける施設はものすごく限られたところになるか、最悪、本当に行き場所が無い。そういう切羽詰まった現場もけっこう見てきたんですよね。
かといって、今の僕では、何もできないという現実も痛いほどわかっていました。
ある日、ふと自分の環境を考えたんです。
実家がアパート経営をしていることは先程お話ししました。そのアパートを活用して、介護やケアが継続的に必要な方の生活期を見られる、受け皿的な施設ができないかと思いつきました。
最初は、我ながらすごくいいアイデアだと思ったんです。それでまず、高齢者住宅みたいなものを考えました。
ところが自分でいろいろ勉強してみるうちに、高齢者施設だけではなかなか完結しないことがわかりました。高齢者施設を先につくっても、医療的なサービスを提供する母体がないので、手詰まりになってしまう。
それでさらにいろいろ調べているうちに、インキュベクスさんの訪問看護を見つけました。
看護という能力をベースに、地域の皆さんの状態を継続的に診られる。地域の情報収集もできる。さらに訪問看護を核として通所や住宅系事業も展開しておられて、ものすごい理に適っているぞ、と。
僕の考えていた最終目標もそこだったので、そこに辿り着ける道順としてこれは合っていると思ったんです。
弊社の事業方針が黒川様のお考えと合っていたのが決め手だったのですね。
そうですね。
実は、契約金が高くてびっくりしたんですけど(笑)、それに見合ったサービス内容があると思いました。
あとは、実際に自分の目で見て確かめてから決めようと考えていました。
かなり無理をお願いしましたが、中村さんをはじめとしてスタッフの皆さんがとてもよく対応していただいたこと。
そして何より、職員の皆さんが生き生きと患者さんに寄り添ったケアを行い、患者さんもみるみるよくなっていく現実。
これは自立支援をはじめ国の政策とも合っており、間違った道ではないと僕自身思って、それでインキュベクスさんにお願いした次第です。
今回、ご家族様の反対を説得されてご契約・事業開設に進まれたとお伺いしていますが、押し切れたポイントは何だったのでしょうか?
押し切れたポイントですか(笑)。
自分が「どうしてもやりたい」という気持ちを伝えたことでしょうかね。
法人で借金も背負うし、人を雇うことでその方の人生をこちらが背負いますから、リスクがあるのは間違いないです。でも、自信があるわけでもないんですが、「自分がやりたいこと」が明確になったので、それを身内の者に正直に伝えました。
最終的には、思うようにやったらいいんじゃないかと背中を押してくれました。もう感謝しかないですよね(笑)。
自分の仕事に価値を見出せる。そんな働き方ができるステーションを目指したい
今後、具体的にはどういった訪問看護ステーションを目指したいとお考えですか?
社名は「ライフテラス」と名づけました。その名前に、目指すものを込めたつもりです。
その方のライフ(生活)をテラス(照らす)。
いちばんは利用者様の生活をしっかりサポートすること。
そして利用者様だけではなく、従業員の皆さん、ひいては地域の方々に、さまざまな形で還元できる取り組みをしたいと思っています。
「テラス」っていう言葉に、もうひとつ別の意味があって。楽しく価値のあることをしていたら、テラスのように人は自然に集まってくるんじゃないのかな、と僕は思っているんです。みんなでワイワイやっていけるような、魅力的な事業所にしたいという思いがありますね。
だから、「ライフテラス」なんですね。
これから一歩を踏み出してライフテラスに求職してくる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。
自分がやっている仕事に対して、価値を見出してもらいたいと思います。
やっていて楽しい、利用者様に喜ばれる、社会的に認められてお給料が上がるなど、価値はさまざまで、どれも意味があると思っています。
僕は将来的に、介護職の方にもお仲間になっていただいて自立支援を提供できる施設運営を考えているんですけれども、介護に関しては「やりがいがない」と思われている方も中にはおられるかもしれない。
でも実はそうではなくて、自分がやっていることは患者さんに対してこれだけ良いことだよ、波及効果があるんだよっていうことを、再認識してもらって、働く喜びを感じ取ってもらいたいです。
自分のポジション、職務に対するマインドをしっかり持っていっしょにやっていきましょうということですね。
そうです。
勇気をもって独立開業するということ、そして――人と地域のために何かを遺すということ
最近、黒川さんと同じように、療法士の方、看護師の方で独立を目指す方が非常に多くなっています。その中には迷っていらっしゃる方も多いと説明会などで感じています。
今後どういうふうに看護師として、療法士として生きていくべきか。悩んでおられる方に対して、起業という道を選ばれた黒川さんなりのメッセージがありましたらお願いいたします。
むずかしいですね(笑)。
起業がいい悪いは別の話にして、その方が置かれた状況はさまざまですから……だから、さあみなさん契約印を押しましょう! とは、僕は全然言う気はないんですけど(笑)。
ただ僕は、もしも「やりたい」という強い気持ちを我慢したら、「あのときやっておいたほうがよかったな」と後悔すると思ったんです。
ずっと大学病院で安泰に、安定して働くのが賢い生き方なのかなとぼんやり思っていました。でも自分にしかできないことももちろん、あります。これが自分の使命だと思うことに似たような感じですかね。
やってみて失敗しても、やってだめだったのだから自分で納得できます。まず一歩を、僕は踏み出したというのが結果になります。
もちろん踏み出さないのが結果、正解という人もいると思います。僕の場合は、後悔するよりは前へ踏み出そうと思った、ということです。
今の時代、地元にUターンして起業する話もたびたび聞かれます。地方での起業の手段としては訪問看護ステーションは需要があると思います。
黒川様も今回、ご自分が育ってこられた地元で起業されたわけですが、ご実家の家業を継ぐことも含めて地元愛、地元を盛り上げたいというお気持ちもあったのでしょうか。
僕が地元以外のところで起業しても、ある程度事業としての手応えはあったと思います。
けれど、僕に限ったことで言わせてもらえば、僕は地域の人みんなに育ててもらったという意識があります。
僕の地元は地域交流が盛んな土壌があるんです。それは今もずっと続いています。
大学病院で働いていたとき、小さいころにお世話になった人たちがお年を召して病院に来ていて、「僕いま病院でこんなことしとるんよ」「お前小っちゃいころ悪かったのに、立派になったなぁ」なんて会話して、お褒めの言葉をいただけたり。そういったつながりを見つけるたびに、ああ、やっぱりこっちに帰ってきてよかったなと思うんです。
だから、自分を育ててくれた地域の皆さんに僕なりの形で還元したいというのが、ありますね。その方法の一つが事業を興すということです。
後藤新平の言葉に、「財を残すは下、業を残すは中、人を残すは上」とありますが、僕が目指すところもそこにあります。
単に財産を残すのではなく、利用者様や地域に喜ばれる「システム」を作り、またそれを生み出し継承できる「人」を遺す。そういう価値のある取り組みをしたかったんです。
地域に受け継がれるサービスとして訪問看護を根付かせたいというお考えなのですね。
高齢者社会や在宅医療への対応という意味に加え、雇用を生み出すことになりますし、若い力が盛り上げるという意味でも、訪問看護には多くの可能性がありますね。
そうですね。実際に利用者様のお宅や、その地域に入らないとわからないことはたくさんあると思います。
学生時代よりお世話になっている方からのご紹介で、居宅サービス施設で今年から働かせてもらっていますが、病院勤務のときは全くわからなかった利用者様のバックグラウンド、特にその方の本当に希望しているサービスの情報が、実際にお宅に行って診たり、家の人と話したりすると得られるんです。
訪問看護は各ご家庭に入っていける強みがあるので、そこで得られるリアルな情報は、とても価値のあるものだと思います。
ぜひ、広く深い黒川様の夢を、一歩ずつ叶えていっていただきたいと思います。弊社も全力でバックアップさせていただきます。
本日はありがとうございました。